2025年9月7日巻頭言


          「もう充分だよ、モーセ」    犬塚 契牧師
主はモーセに言われた。「これがあなたの子孫に与えるとわたしがアブラハム、イサク、ヤコブに誓った土地である。わたしはあなたがそれを自分の目で見るようにした。あなたはしかし、そこに渡って行くことはできない。」<申命記34章>
  80歳から出エジプトのリーダーとして働いたモーセでした。40年間の荒野での放浪の旅もいよいよ終盤です。約束の地を目前にして、「あなたはしかし、そこに渡って行くことはできない」と主は言われます。それは、少し前にメリバで命じられた方法以外、すなわち怒りにあまり岩を杖で2度打って水を出したことへの罰だったと受け止められていますが、はたしてどうでしょうか。3.11以降、放射性物質がつもる故郷を追われ教会の人たちと旅を続けた牧師が、緊急事態の毎日でなされる決断の重さ、大きさを話してくれたことがあります。2泊3日のキャンプは楽しいものです。しかし、40年は長い。それは壮絶です。ネボ山に登って約束の地を見渡したモーセに、「その土は踏ませない」と神は罰を与えたのではなく、その言葉は「もう充分だよ、モーセ」という傍らに立ってのねぎらいでした。「主の僕モーセは、主の命令によってモアブの地で死んだ。主は、モーセをベト・ペオルの近くのモアブの地にある谷に葬られたが、今日に至るまで、だれも彼が葬られた場所を知らない」(5-6節)。▲王宮でモーセと一緒に育った者たちはみなミイラになって、死ぬことも許されず、博物館の中、今も人々の前に晒されています。しかし、モーセは主の命令によって死に、主ご自身によって葬られ、主しか知らぬ場所に葬られました。神と顔と顔とを合わせて語り合ったモーセの生涯が誰の前にあったのかを改めて知らされています。約束の地に行けぬと知った、モーセの想いは34章に書かれていません。ただもう充分だったのではないでしょうか。モーセの嗣業は神ご自身でした。